■ 500■ 12月5日 2007
「ロイクラトン」

ロイクラトンのコムロイを楽しんだ翌日は、灯籠流しが盛んなピン川に出かけました。
爆竹や、花火を群集の中に投げ入れる暴挙が後を絶たず、危険地帯と化しているロイクラトン時のピン川は、あまり出かけたくない場所です。ちょうど4月の
タイ正月、ソンクラン(水掛祭り)に、街に出て水浸しになって風邪を引く愚行に似ています。
今年出かけてみようと思ったのは、コムロイに同行した元秘書のKさんが、明日はピン川に大きなカトンが流されるという情報を残して、バンコクに帰って
いったからです
Kさんはチェンマイのことをよく知っていて、久しぶりに訪れたチェンマイで買い物をしたいからと、朝早く出かけていきました。車でお付き合いをするとい
う僕の提案を断ってです。
2時間くらい経って戻ってきて、買ってきた自分用のおみやげを披露してくれました。チェンマイ名物ムーヨウ(豚肉を蒸したもの)は、僕や家人がバンコク
に出かける時のおみやげにしていた品の一つですが、なにげなく近くのトンパヨム市場で買って持って行っていました。しかし、遠慮深いKさんは、チェンマイ
ではムーヨーはどの店のものが一番おいしいなどとは今まで、一言もいわず、ありがとうございます、と受け取っていました。話題がムーヨーに及んでも、あの
店のものが一番うまいから今度買ってきてくださいなどいうリクエストはありませんでした。
40年になんなんとしている僕との付き合いですが、話題がそこまで深く発展していくことはありませんでした。日本人であれば、あの店のものが一番うま
い、いや、この店が一番などと意見を言い合い、話に花が咲くのでしょうが、タイ人との会話では、そこまで突っ込んだものになることはまずありません。
勧められたものには、自分の好き嫌いをいうわけではなく、どんなものも一応箸をつけます。僕は今で好き嫌いをいったMさんを見たことがありません。しか
し、タイ人は自分の中ではちゃんとした価値基準や、はっきりとした味の嗜好を持っているものだということを、今回はきり思い知らされました。別段Mさんが
遠慮深い人だからいうのではありません。
タイ人の心の中を除くのは至難の業だといわなければなりません。昔、こんこんな話を聞いたことがあります。「中国潮州出身のタイ人は、我慢図よく、友好
的で、親切な人が多い。しかし、いったん怒り出すと手がつけられなくなり、時には殺人事件に発展することもあるから気をつけた方がよい」
こう話してくれたのは、僕が最初にタイに駐在した25歳の時、今から40年くらい前のことです。話してくれた人は、その昔、日本に留学してシルクスク
リーンを勉強して来た中国系タイ人です。そのときはそれほど真剣に聞いていなかかったのですが、その後タイとの付き合いが長くなり、その間に新聞などで報
道されたニュースを見ると、些細な意見の違いが殺人事件に発展してしまったという話は枚挙にいといません。
僕が20年余生活した香港は、その大半が広東人です。彼らは底抜けに明るく、短絡的で、いわゆる切れるのを見たことがありません。暴力団の抗争で、街中
で拳銃の発砲事件があったというニュースは時々新聞やテレビを賑わせますが、一般市民を巻き込んだ拳銃発砲事件や、抗争はまずきいたことがありませんでし
た。その点では最近の日本より安全だといえます。
日本では香港は非常に危険なところと宣伝されていますが、実際に住んでみた感想は、それほど危険でも、怪しくもありませんでした。現地でも危険とされる
九龍城やチョンキンマンションなども探訪して見ましたが、ちょっと気味悪い感じはしますが、それほど危ないという訳ではありませんでした。
広東人は、自分の考えを心の中にとどめておくことが出来ません。人の話を取ってでも自分の意見を押しつけようとするところは、ちょっと関西の人に似てい
ます。だから、話し声は非常に高く、知らない人が聞いているとまるでけんかをしているように聞こえます。
それに比べてタイ人の話し声は小さく、あくまで静かです。
人前で怒鳴っている姿など見たことがありません。それに人前で他人を叱責するのはタブーです。
しかし、香港に比べるとタイでは、刃傷沙汰が多いように思います。それだけ情熱的である証拠かも知れませんが、新聞をにぎわわせている殺傷事件は、
ちょっと想像を超えたことが原因だったりしますから、こうなるとタイ人がますますわからなくなってしまいます。
夫が浮気をしたので、その仕返しとして殺害、ペニスを煮て食ったという話などを聞くと、その情熱の強さに呆れかえると同時に、普段は物静かなタイ人がど
うしてここまで過激な行動に出るのか理解できません。
僕はどちらかというと短気な方で、ゴルフなどをやっていても自分のミスショットに自分で呆れかえり、怒りをあらわにします。しかし、これはあまりよくな
いマナーで、家人にいわせれば、キャディーはいつも怖がっているといいます。ちょっとしたもつれが刃傷沙汰や、殺人事件に発展することを恐れているともい
います。
タイ人と話をしていて気づくことは、相手の考えを否定することがまれだということです。だから会議などでも僕の意見が同意されているのか、いないのかの
判断を誤ることがあります。個人的な意見が百出して、議論沸騰という場面は多くはありません。皆、自分の考えが正しいと確信しているふしがあり、人の意見
を取り入れようとする気持ちがないように思われます。
話が脇道にそれてしまいましたが、Kさんの話の中にもそんな部分がたくさんあり、早朝に出かけて買ってきた、ナイトバザー近くの「スチンムヨウ」がチェ
ンマイで一番おいしいもので、皆よく知っています、有名です、ということです。だったら早く教えてくれればよかったのに。今までチェンマイ土産で持って
行ったものは何だったのでしょうか。あそこのものが一番おいしいから次回はそれを買って持ってきて欲しいと、どうしていわないのでしょうか。そのあたりが
僕に理解できない部分なのです。タイ人を理解するのは時間がかかるようです。
さて、出かけたピン川周辺は、今年も沢山の人出です。ワロロット橋やその先の鉄橋は、綺麗にライトアップされており光が川面には反射してきらめいていま
す。ワロロット橋のかなり上流の場所に駐車して徒歩で川縁に降りました。
普段は遊歩道になっている部分には、実に多種多様な屋台が出ています。食べ物を始め、カトン、コムロイ、爆竹などは定番です。小さなカトンを買い求め川
面に降りました。小さな子供が花火を揚げています。こんな子供が一人で危険だろうと思われる年格好の子供ですが、周りは何もいいませんし、第一小さな子供
が花火を揚げていても我関せず、です。
下流のワロロット橋の光の中に、小さなカトンがゆらゆらと流れてきます。頼りなく灯るろうそくの火は、ロマンチックというよりは、タイ人気質にて実に頼
りなげです。恋人同士でしょうか、二人でろうそくの火が消えないように手で覆って、静かに水面におろし、流れに乗るように手で水を押してカトンを遠ざけま
す。幸せの一瞬を垣間見た感じです。
Mさんの聞き込んできた大きなロイカトンを見るべく、川縁のレストランを何軒か覗きました。かき入れ時とあってどこも満席です。仕方なく、かなりはずれ
のレストランに空席を見つけ、腰を落ち着けました。
ピン川の両岸からコムロイや、花火が盛んに揚げられます。川の向こう岸に、ワロロット市場の駐車場が見えます。今日は人気の少女美人コンテストのパレー
ドがあるらしく、ちょうど僕たちが席を確保した対岸がパレードの解散地点で次々と行列が到着しています。
賑やかな祭りをちょうど裏側から見ている感じになり、まもなく終了する祭り日の華やかで、それでいて何となくうら寂しさのただよう複雑な奮起がこちらま
で伝わって来ます。
ビールを2本飲んでもピン川の川面にはなんの変化もありません。小さなカトンが大量に流れてきて、その中のいくつかがレストランの船着き場の桟橋に引っ
かかるのを、先ほどから少女が長い竹竿で、流れの本流に押しやっている光景も、時間が経っても変わりがありません。
腰を揚げようとした時、水上警備とおぼしき船が現れ、そして満艦飾の船が目の前に到着しました。その船が下

流の方へ流れていき、ワロロット橋の手前で引き返して来ます。それを3回繰り返しているのを見て席を立ちました。行事はそれ
だけでした。
僕はてっきり、何艘もの派手やかなイルミネーションをした船の水上パレードが見られると思っていたのですが、この船仕立てのカトンは、今年初めての試行
で、来年からもっと大がかりに行うとのことです。12月5日は国王陛下の80歳の誕生日です。船のイルミネーションも国王慶賀をテーマにしていました。来
年からはきらびやかな船のパレードが見られることを期待したいものです。
「サキさんのチェンマイ日記」が500回になりました。ご購読感謝いたします。
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