サ キさんのチェンマイ日記

                                        
 

■ 446■ 9月16日 2006

「血染めのDVD」

胆石の手術後、医師から渡された物に出てきた「石」と「手術のDVDがあります。内視鏡で手術するのですから、そのモニターを録画すればいいのですから、 技術的にはそんなに問題はないと思います。
しかし、自分のおなかの中を切り裂く様子を克明に映した映像は、そう見たく感じるものでもありません。

術後の痛みが和らいだ、退院後一週間が経ち、絆創膏をはがした翌日に意を決して家人と見る事にしました。

血染めの手術だろうと想像していましたが、内視鏡の手術は出血も
そんなになく、輸血が必要ない手術と聞いてはいましたが、僕が予想していた事に反して、出血の場面は皆無でした。

画面はいきなり、内蔵を映し出します。その昔、「ミクロの決死圏」という映画を見た事がありますが、あれは人間が小さくなって、体の中を巡るという話でし たが、今回の映像は、内蔵の中ではなく内蔵を外から見るという全く新しい映像で、最初は驚きました。だって、カメラには、鮮明な映像で、肝臓や、胆嚢や、 胃が映っているのです。

今まで見た手術の映像は、心臓や、肺などが動いている物でしたが、僕の手術の映像は、映っている臓器は全く動いていません。

それにこの映像は、今までは開腹しての手術で初めて見ることができる様子で、4カ所の小さな穴をあけて、そのうちの一つからフアイバースコープに取り付け られたカメラで、手術箇所を映し、その他の3カ所からレーザーメスや、臓器をつまむ、まるで氷つまみのような、先がギザギザになっているつまみを突き刺 し、臓器を手術する内視鏡の手術は、考えれば考えるほど、よく研究された手術法方だと感心させられました。

画面中央に映っている、円形の画像は、へその穴から差し込まれたカメラによる物です。映像は、なんだかテントの天幕を突き破って差し出されている感じで、 そうすると、このカメラが入っている場所は僕のへその部分という事になります。全く今まで見た事のない映像がいきなり目に飛びこんできて、なんだか変な感 じがします。これが腹部の内部を映しだす「目」とすると、その上部と脇腹の二カ所は、レーザーメスと、氷つまみと、内蔵に出血した血液を吸い出す管が取り 付けられているようです。

僕の観察では、カメラは直径5ミリぐらいの細さ、氷つまみは長さ3センチくらいの大きさに見えます。これは胆嚢がイチジクくらいに大きさ、つまり長さ5セ ンチくらいと推測しての観測です。画像は何倍かに拡大されて映し出されています。

DVDの映像はいきなり、中央に胆嚢が大写しになる所から始まります。手術はこの段階ではかなり進んでいる感じで、画面の下の方に、なんだかまくり上げら れたような脂肪の固まりがあります。これは僕のおなかにたまった皮下脂肪と思え、これだけの厚みがあれば、
これが肥満の原因になっていたのかと納得される様子です。多分外科医のV医師は、ここまで切り進んで、胆嚢をあらわにするのに、相当の時間を要した感じで す。

と、言うのも、内視鏡で使われる器具は相当小さなサイズで、これをうまく操って臓器を切り取るのは、かなりの経験が必要だと思われます。後日談になります が、心臓の移植手術は経験の豊富な病院では今や、失敗の確率は1パーセントですが、これが経験の少ない病院では3パーセントくらいに跳ね上がるという事 で、内視鏡での胆嚢摘出でも、経験が物を言うとは、Y氏の持ってきてくれた資料にも書いてあり、僕もV医師に聞いたところ、大ベテランだということで安心 したのですが、このDVDを見れば、いかに細かな、気長な、根気のいる手術だという事が一目瞭然です。

胆嚢を挟んで、レーザーメスで切ってく訳ですが、このレーザーメスがまた優れもので、刃先は推定3センチぐらい、メス状の物がハサミのように2枚重なって ついていて、これは刃先で切り、2枚の歯ではさみ、そして、メスの部分は横に平たく使えば電気ゴテの様に熱を発し、焼き切る事もできるようなマルチパーパ スになっています。

氷ばさみで、胆嚢をはさみ、このメスで切り離していくのですが、今回の大発見ですが、内蔵はちょうど鶏の腹部状で、色もそっくりです。脂身の色もそのも の、家人はここで、「これは鶏一羽をさばくのに似ている」などと、それほど驚きの様子を見せません。反体に僕は、今切り離されているのは、僕の内蔵だと思 うと、ちょっと複雑な気持ちになり、なんだか手術の跡がまた痛みだしたような感じがします。こんな形で、自分の腹部の中を見せられるとは、想像だにしませ んでした。

臓器はバラバラで存在するのではなく、それぞれが鶏のささみの中に1、2本ある筋のような白い紐状の物で、他の臓器につながれています。僕の場合では肝臓 につながれている胆嚢を切り離す手術がおきなわれているという訳です。少しずつ、少しずつ、です。胆嚢を挿んでいる氷ばさみは小さいので、うまくホールド できずに、何回も摘み直して、胆嚢をひっくり返したりして、メスで切っていきます。

まるで、ままごとをしている感じのスピードで、ゆっくり、丁寧に、
細心の注意を払ってという様がありありで、そこには大胆さというものは一切存在しない、そんな手術です。

切り離した後は、少し出血しているのですが、そこにヘソ上の穴から洗浄液を拭き出すノズルが差し込まれます。傷口を丁寧に洗ってそのノズルが引っ込むと、 今度は別の管が差し込まれ、これで洗浄液と、たまった血液を吸い出します。ちょうど歯科医で歯の掃除をしてもらうときの要領です。

こんな作業が延々と映し出されます。ようやく胆嚢が切り離され、その後、どうするのかと思っていたら、切り離した部分を、レーザーメスの平たい部分で焼い ていきます。この部分は電気ごての様になっておおり、これで、まるでセメントを塗るように滑らかにしていきます。もちろんこのとき、まるで焼き肉をしてい るように、煙が発生し、それがカメラのレンズにかかり、一瞬、画面は白い色で覆われます。
「しばらく焼き肉は食べられないね」とは僕の感想。
「いや、こんな感じは結構好きよ」とは、血を見てもそれほど慌てふためかない家人の感想。事実、術後の二回の出血でも家人は慌てることなく、出血の元を探 り当て、適切な処置をしてくれました。血を見る事は、男性より女性の方が慣れているのかも知れません。


内蔵、それも消化器系の部分が映っていますので、これは数日前から水以外は一切口からの食べ物を食べないで、点滴で過ごしていた意味はこれだったのかと気 がつきました。食べ物が存在するとこれほどスムーズには手術が進まない事でしょう。まさか、全身麻酔で消化器系の臓器まで眠っているはずはないと思いま す。

普通は1時間くらいで終了する手術ですが、僕の場合は3時間もかかったとは、術後V医師に告げられた事実です。どうも、多少見づらい位置にあるとは、ST 主キャンで撮影した時に言われていましたが、手術でもそれが影響して時間がかかったようです。胆嚢が切りはなされました。どうして体外に取り出すのだろう かと、多少興味を持った部分ですが、胆嚢はそのまま画面左下に置かれました。

その後は、切りはなし部分の臓器というか、肉片というか、それを丁寧にならしてスムーズに仕上げます。レーザ−メスの腹の部分を使って、丁寧にならして行 くのですが、その都度煙が出ますので、焼き肉をやっている時の様子とそっくりです。煙も画面に対して結構の量出ています。いま、僕が小さくなってミクロの 決死圏のように、小さくなって現場に立ち会っていれば、焼き肉の匂いすらしているのではないかと想像させられるシーンです。

手術は最終段階に入りました。丁寧に今まで存在した胆嚢と、肝臓をつないでいた部分がきれいに仕上がりました。と、言う事はこの手術では結合部分は縫い合 わせるのでなく、塗り込めるという方法で処理されたと想像でききます。多少出血している物を丁寧に吸い出し、洗浄して吸い出す作業がしばらく続きました。 最後に、この部分と腸の間に、注射器状の長い管を丁寧に置き、針は腹部の外に出ています。術後3日間、右腹につけていた血抜きのボトルはこれにつながって いるのです。

最後は、吸い込みノズルがヘソ上の穴から差し込まれて、今は、内部の胆汁を抜き取られてペッシャンコになった、胆嚢の袋をすっと吸い出し、管が抜き取ら れ、そしてカメラの管が抜き取られて、映像が終了しています。カメラの管が抜き取られる瞬間に薄い膜のような部分を通過するシーンが映し出されています が、あれは僕の腹の皮が映し出されたものだと気がつくと、このDVDに映しだされる映像に、全く現実を感じなかったのですが、この、腹の皮を通過するシー ンで、今、まさに決死圏からの脱出という感じがして、これで僕も無事手術から生還したのだと、実感が持てました。と、いっても、これすべて、僕は麻酔で 眠っている間に行われた手術で、自覚は全くありません。

見る前は血染めのDVDを想像していたのですが、血しぶきも飛びちらず、静かな手術でした。最もDVDには音声は録音されていませんので、すこし、臨場感 には乏しいものがあります。これで音声が録音されておれば、映画で見るように「メス」「鉗子」「止血」「ガーゼ」
などと医師が声をだし、看護婦がてきぱきと手術道具を差し出す、おなじみのシーンが展開されていた事だろうと想像をたかくしていましたが、内視鏡の手術で は、器具も小さく、外科医が一人で操作して、氷ばさみの部分はその他の医師や、助手が介在する部分で、全く静かで、動きのない手術の様が想像できます。

こうしてDVDは終わりました。自分の内蔵をクローズアップで見物できる貴重なDVDです。ケースのタイトルには「Touches to remember」とあり、病院の建物、アルバムを見る若いカップル、
おばあちゃんと、娘と、孫が、バースデイケーキを持っている、明るい写真がコラージュされていました。まさに「幸せはここに」というシーンです。

入院後は禁酒を心がけています。再び暴飲、暴食状態に落ちいったときは、このDVDをとりだし、あの激痛を思い出して、節制をしようと強く思わせる力がこ のDVDの小さな箱には存在します。


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