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「ねずみ取り」
■326■
7月1日
もしかするといるかもしれないという疑問が現実となりました。
「ネズミ」です。
この家は4階建てに相当するメゾネット形式ですので、屋上までは相当の高さになるのですが(約10メートル)、一番上の部屋は家人の居室になっていて、
その天井付近で「チュ」というネズミの鳴き声のような音を聞いたといいますし、先日前庭の芝生の上を走りさる小動物を目撃していますし、何かが我が家に住
み着いているとうことは想像できましたが、今時ネズミとは信じられません。と、いうのも、この家に引っ越してきたから2ヶ月に1回の割合でペストコント
ロールを頼んでいるし、最初はたくさん死んでいたゴキブリも最近ではかなり少なくなってきており、先月のペストコントロール後は、ゴキブリの死骸をみるこ
とはありませんでした。だからネズミなど近寄れないと過信していました。
チェンマイは少し郊外に出ると、田園風景が広がる地方都市ですし、街中ものんびりとした風情で田舎街といってよい位の大きさですので、ネズミの1匹や2
匹がいても不思議ではないのですが、我が家にそれが住みついているとなると呑気に構えてはおれません。
大体タイの家は作りが大雑把というか、細かいところに神経を使わないというか、おおらかな作りで、部屋なども真四角でなくベッドを壁にくっつけるとかな
らず片一方に隙間が空くという案配です。これは香港時代にも経験したことで、見た目はまっすぐな壁際の直線でも家具をおくと湾曲していることが判明したり
して苦笑することがありました。日本家屋の様に何枚もの畳をぴたりとあわせて入れるという器用さはここでは望むべくもありません。だから家中が隙間だらけ
ということになり、外壁なども後からやった水周りの工事用にあけた穴などをちゃんと埋めてないので、そのあたりからネズ候が自由往来を決め込んでいた形跡
があります。
日曜大工は好きな方ですが、前住地香港ではその腕を発揮する機会がありませんでした。この地に移り住んでからは十二分に腕を発揮する機会があります。家
が大雑把に作られている上に、大家が全くメンテナンスをしていないのでドゥ・イット・ユアセルフの腕を駆使する機会が多く、退職後の時間を退屈なく過ごせ
ます。それに最近できた「Home
Pro」という住まいの大型店がいろいろなパーツを売っていますので、街中の個人商店に行って不器用なタイ語で意思の疎通を図る必要がなくなり、その分材
料も簡単に手にはいります。この「Home
pro」は優れもので、大型スーパー、カーフに併設されていますが、センスのある家具や調度に混じって建築材料を幅広く取り扱っており、水道の蛇口など
パッキンが緩んで水が止まらない箇所を発見した機会にモダンなものに取り替えました。ちょっとした変化ですが、毎朝の洗顔が実フレッシュな気分になりま
す。
まず穴を塞ぐことにしました。天井の石膏ボードの不要な穴は新しいボードを買い求め下に重ねて塞ぎました。壁にあけられた水道管の周りの穴もコンクリー
トで完全に塞ぎました。そうして2、3日たつと我が家にネズミがいるのではという不安が現実のものになりました。一階のキッチンに隣接した女中部屋は現在
倉庫と食料品貯蔵庫に使っているのですが、そこにおいてあったタイ製のカップヌードルがやられました。すべての穴が塞がれたため自由往来が不可能になり、
食品貯蔵庫の食べ物に手を付けたことになります。しかし、先日香港の友人が持てきてくれた日本製のインスタントヌードルに手を付けないのは、このネズミも
タイ生まれで、タイ製の味が好みだと言う証拠で、ちょっと微笑ましくなります。
このネズミ、従前は家の中をかなり自由奔放に走り回っていたようで、ネズミの存在を疑いだしたのが、4階の家人の居室で鳴き声を聞いたというのがはじ
め、2階の居間のテレビラックの上の置物が落下しているのを発見してますますその存在が現実味を帯びてき、インスタントラーメンが齧られているのを発見し
た段階で確信するに至りました。10メートルの高低差を行き来していたことになります。
早速のネズミ退治といっても、金網製のねずみ取りくらいしか思いつかないので、チョータナーという建築材料や金属製品、針金などを売っている店が軒を連
ねている街に出かけました。香港でもこんな街があります、「五金屋」が集まった街です。五金とは5つの違った金属を扱いますという意味です。つまり金属製
品の専門店。ネズミみ取りはタイ語でガップ・ダック・ヌゥ(kap dak
nuu)と言います。店主に尋ねるとあさりとマイミーと言われました。「どこで売っているのでしょうか」というこちらの質問に、近くのスーパーマーケット
にあるはずだと言う返事です。このスーパーは半月に一回買い物に出かけているのですが、今までねずみ取りを見たことがありません。バーベキュー用の炭など
を置いてあるコーナーを丹念に探しましたが買い求めることが出来ませんでした。
(注)
kap= 捕まえる dak=罠を仕掛ける、待ち伏せする nuu=ネズミ
困り果てて、一時は薬局へ行って毒薬でも買い求めてみようかと考えましたがそれもかなわずあきらめかけていた矢先、一つのアイデアがひらめきました。契
約しているペストコントロールはこの道の専門家だということに気づいたのです。早速電話を入れました。それも多少大げさに・・・・。映画「ゴーストバス
ター」さながらに早速社長自らがお出ましになりました。でも手元に下げているビニール袋はぺちゃんこです。金網製のネズミ取りなど持参した様子がありませ
ん。
ことの真相は後になって判明、大笑いです。子供のとき見たねずみ取りなど、今ではチェンッマイでもかなりの時代遅れで誰も使わないとのことです。社長が
下げてきたピニール袋の中身は、プラスチックの黒いお盆が2枚、それに中サイズの缶が1個です。何か缶のふたを開けるものはないかと、自分で台所にあった
料理用はさみを取り上げ使いだします。この缶の中身はポイズンだと信じきっているので慌ててドライバーを差し出しましたが、こちらの懸念を察したか、これ
は毒ではありませんとのお言葉。中から出てきたグルーを付属のスプーンでお盆にたらしながら起用に塗り付けていきます。何事が始まるのかと興味が一段と増
します。
既成概念とは恐ろしいものだとこの時ほど思い知らされた瞬間がありません。ネズミを捕るには針金で出来たかご状のものか、バネ仕掛けの装置が板に取り付
けられているもの、その他では毒性の強い
ネズミまんじゅうと信じきっている身にとっては一体何が始まるのか理解できません。中心部を残してきれいにグルーを塗り終えて「ビスケットがありません
か」との問いかけにことの全容が理解できました。最新式のねずみ取りは鳥餅状のグルーで動けなくして捕まえる方法だったのです。いってみれば「ゴキブリホ
イホイ」の大型版です。
これで2、3日したらネズミを確実に捕らえることが出来ますよ、とペストコントロールの社長は帰っていきました。さてその翌日、所用で朝一番の飛行でバ
ンコクに出かけなければならないサキさんが、早朝台所におりて行くと、いました。体調10センチ位のネズミです。急に電気をつけたので面食らったのかきょ
とんとしています。しばし、お互いに目と目とがにらめっこ状態になりました。近くにあった新聞紙を丸めてたたきつぶそうとしたサキさんの行為はこきぶり退
治の姿勢。ネズ公の方はどうこの急場から逃げ仰せようかと、しばし、思案している様子です。時、数刻、ネズ公の選んだ選択枝は空中を飛び越えて隣の食料倉
庫に逃げ込む作戦でした。
台所と食品庫を隔てる窓にはガラスが入っていないで、その代わりブラインドが下がっているだけです。高さ約1メートル、現在乗っかっているテーブルの高
さ70センチ。このテーブルからブラインドの窓までの距離50センチ。この幅を大胆に空中飛翔を試みたのです。ネズミが空中を飛ぶのを見たのはこれが初め
て。大胆に勇をこして試したこの逃避行、見事にはずれで、あわれネズ公は窓枠に激突、試みは失敗に終わりました。当方も新聞紙以外にこれという捕獲道具を
持っていないとなると、ネズ公がどこに逃げ込むかを注視する位しかこの場の方策はありません。
空中飛翔に失敗したネズ公はテーブルの下に隠れてしまいました。再び時しばし、捕獲をあきらめて裏庭に逃がす作戦に変更しました。ここで家人が起きてき
ましたので、ことの顛末を話して、多分ネズミは外へ逃げた様だと伝えました。ここでサキさんの時間がいっぱいになりました。朝一番のバンコク行きの飛行機
は7時出発です。
ネズミは見事捕まえたとの報告を受けたのは1泊で出かけたバンコックから帰宅した翌日の夜のことです。
前日の場面を引き継いだのだが、家人が考えるにサキさんがやり残して行った状況はネズミ捕獲作戦としては最低、第一ネズミの習性を知らなさすぎると言
う。ネズミは決して明るい方には逃げて行かないものだ。空中飛翔をしたということはペストコントロールの社長が仕掛けて行ったネズミ取りを置いてある場所
が不適当。床ではなく、食料を貯蔵してあるカートンボックスの上に仕掛けるべきだ。以上の考察からねずみ取りのお盆をカートンの上に置き直して一晩待っ事
にしたとのことです。試み見事に的中。翌朝期待に胸膨らませてのぞいてみるに、小さな声で鳴くネズミの声が聞こえるではありませんか。しかし、仕掛けたお
盆は床に落下しています。あんな強力なグルーが床にくっ付いた日には、はがすのが大変と近づくと、危惧はあたっていないでお盆は上向きに床にあります。中
心に仕掛けたビスケットは既になく、お盆のグルーに半身を捕らえられて身動きできないネズミはまだ生きています。
プラスチックのお盆の縁は見事に齧られつくして360度ギザギザです。ここからは家人の証言。このネズミはかなり用心深いと見えて、最初から大胆にビス
ケットを狙ったのではなく、用心深くお盆を齧ってビスケットに近づこうとした形跡あり。しかし、試みが不首尾に終わり、いつまでたってもビスケットにあり
つけないのに
短気を起こし、ついにビスケットめがけて飛んだはず。口はビスケットを捕らえたがあわれグルーに半身をとられて身動きできなくなってしまった。それでもビ
スケットは平らげているのはかなり腹を空かせていた証拠。では豊富にある食料を狙えばよい、と言えばことは簡単だが、人間の食べ物を狙うのはあまりに危険
な行為と考え、食事は今までは自由に出入りできた穴を使って戸外に出、近くのゴミ集積所の生ゴミをあさっていた。しかし、その穴や天井の穴が完全に塞がれ
てしまった結果、外出ままならず、空腹に耐えかねてついに人間様のカップヌードルに手を出してしまった。結果としてはこれが命取り、逃げ場所は完全に塞が
れ、しばらくすると何やら仕掛けられたビスケット発見。用心に用心を重ね、考察に考察を重ね、これは中心部に飛び乗ってビスケットだけを失敬すればいいの
だと、空調飛翔を試みた結果、志かなわず落下、グルー地獄にはまってしまったのだとのだという。その後このグルーを齧りとって脱出を試みるも成功おぼつか
なく力つきた様です。
いやはや、その後どんな方法でネズ公をご昇天させたのかの件を早く聞きたいのですが、家人の証言はまだ続きます。発見当時は力なく小さな声で泣いていた
ネズ公、近づくと身の危険を察したのか、大声でキイキイと泣き叫びます。大きさも身動きできなくなったのをよく観察するとサキさんの目撃したサイズより大
きく見えたとのことです。昇天させるには子供のとき仕入れた知識を思い出し、バケツに水を張り般若心経を唱えながらその中で水死させたとのことです。かな
り勇気がいる行為だと思われますが、我が家ではこんな場面では家人の方が力を発揮する場面が多く、子供が小さかったとき、鼻の穴にビーズを入れてしまって
それがどうしても取れなくなってしまった場面でサキさんは病院にいくことを提案したが、まてまてと観察眼鋭く、ピンセットで一気呵成に見事取り出したこと
があり、子供が大けがをした場面でもあいにく外国ロケに出ていて不在の男に代わって一人で、病院の手配などしたと言うし、大事なときには家にいないで全く
頼りにならないというのが我が家のサキさんに対する定見となってしまっています。
家族から実に頼りなく見られているサキさんですが、それにしてもこのネズミ退治の最終場面には立ち会ってみたかった。願わくはネズミが罠にかかるのがも
う一日遅かったならば、この汚名、挽回できたのにと悔やんでも、それは詮無いことのようです。こうしてネズミ退治の騒動は終了しました。めでたし、めでた
し。
ねずみ取り作戦
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